1970年代のフランス自動車界は、今とは比べものにならないほど自由で、型にとらわれない発想が次々と形になっていました。そんな時代の空気を象徴するような一台が、1976年のパリ・モーターショーでプジョーとピニンファリーナによって発表されたコンセプトカー「プジョー・プジェット(Peugeot Peugette)」です。
この車は、単なるコンセプトカーというよりも、イタリアのデザインスタジオ「ピニンファリーナ」とプジョーとの20周年のパートナーシップを記念する贈り物でもありました。10年後には、同じく記念として「グリフ4(Griffe 4)」という別のコンセプトカーも登場しています。
実はプジェットには2種類のバージョンが存在します。ひとつは風防付きの2人乗りロードスター。そしてもうひとつは、もっとラジカルな、小さなスクリーンしかない1人乗りのバーキットタイプです。このような遊び心あふれるバリエーションは、ピニンファリーナらしい自由な発想の象徴と言えるでしょう。
ベースとなったのは、1973年に登場したプジョー104。そのコンパクトさと軽快さを活かし、ピニンファリーナは104クーペをさらに改造。特に1974年に登場した104 ZSがベースになっており、エンジンは1124cc、66馬力(X型)を発揮。当時の軽量ボディ(わずか740kg)と相まって、GTI登場前の小さなスポーツモデルとして高く評価されていました。
プジェットの狙いは明確でした。若者向けの、手の届く価格で楽しめるスポーツレジャーカー。プジョーに対して、「こんなモデルを量産化してはどうか?」という提案でもありました。現代風にいえば、ヨーロッパ版の軽オープンスポーツカーのようなものです。
また、プジェットは単なるカブリオレ版104ではありません。ピニンファリーナは生産コストの削減にも着目しており、その結果、ボディは完全に左右対称に設計されていました。ボンネットは前後で共通のものを使用し、ドアパネルやサイドスカートも左右で共通部品を使うという徹底ぶりです。実際、ボディ全体は10個のパーツで構成されており、そのうち4つだけが前後のライト周り専用でした。
デザイン面でも魅力はたっぷり。ルーフはなく、ドアはシンプルなプラスチック製で、キャンプや海辺にぴったりの軽快なスタイル。しかも低く構えたプロポーションがスポーティーさを際立たせ、軽量さゆえのキビキビとした動きも期待できました。実用性というよりは、週末の冒険に連れて行きたくなる、そんな相棒のような一台です。
しかし残念ながら、この大胆で楽しいコンセプトは量産されることはありませんでした。1970年代後半、世界はオイルショックや経済の混乱に直面しており、大衆向けのニッチなレジャーカーに投資する余裕はなかったのです。それでも、プジェットはプジョーとピニンファリーナの関係を象徴する歴史的なコンセプトカーとして記憶に残り続けています。
今では当時の写真をネットで見かけることはできますが、実車を見る機会は非常に稀。まさに幻のレジャーカーと言える存在です。それでも、その自由な発想と若者へのメッセージ性、そしてデザインの魅力は色あせることがありません。
こうした知られざる名車を知ることは、プジョーやフランス車の世界をもっと深く、もっと面白く感じるきっかけになります。当店では、そんなフランス車の魅力を伝える雑貨やアクセサリーを取り扱っています。クルマ好きの方も、デザインが好きな方も、ぜひ一度ご覧になってみてください。