シトロエン タイプB10の歴史と進化

1924年のパリ・サロンで発表されたシトロエン「タイプB10」は、1921年に登場したB2の進化版として開発されました。当時、競合他社が次々と改良を進めていたため、シトロエンも新しい一手を打つ必要がありました。
そして、このB10は単なるモデルチェンジにとどまらず、自動車の製造方法そのものを大きく変える革新的な存在となったのです。

 

世界初の「オールスチール」ボディ

 

タイプB10が導入した最大の革新は、木製フレームを廃止し、世界で初めて「オールスチール」構造を採用したことです。
これは、プレス加工で成形されたスチール骨格に外板を電気溶接するという新技術でした。その結果、車体はより軽量かつ高剛性となり、さらに自動化・半自動化による生産が容易になりました。

 

しかし、この革新を実現するためには、高額なプレス機や溶接設備の導入が不可欠でした。当時のシトロエンは1日あたり300台の生産能力を持っていましたが、インフレーションの影響もあり投資回収は容易ではありませんでした。

 

B10からB12へ ― 改良の道のり

 

 

革新的であったB10ですが、急ぎ足で導入されたためにいくつかの課題も抱えていました。特に、当初のシャーシがオールスチールボディに十分対応していなかったため、取り付け部分に負荷が集中し、補強工事が必要となりました。
それでも改良を重ねた結果、B10は最終的に大きな成功を収め、当時の販売価格25,000フラン(B2よりわずか2,000フラン高いだけ)で多くの顧客に支持されました。

 

1925年には、これらの課題を解決するために「B12」が登場します。新設計のシャーシを採用し、オールスチールボディとの相性を最適化。また、前輪ブレーキを追加し、安全性が大幅に向上しました。
ボディバリエーションも豊富で、リムジン、カブリオレ、ランドーレ、商用車(ノルマンディー型)などが生産されました。

 

 

さらなる進化 ― B14の誕生

 

 

1926年10月には、新たな進化を遂げた「B14」が登場します。
本来なら「B13」と名付けられる予定でしたが、最終的に「B14」として発売。強化されたシャーシと1359ccのエンジンを搭載し、より快適で信頼性の高い走りを実現しました。さらに、シトロエン独自の「サーボブレーキ」を採用し、4輪すべてに作用する画期的な制動性能を誇りました。

 

B14は1927年に二度の改良を経て、「B14.F」「B14.G」へと進化。特にB14.Gでは丸みを帯びたルーフや通気口付きの新しいボンネットを採用し、生産台数は1日500台を超えるまでになりました。

 

 

 

主要スペック

 

B10

  • 全長:3.68m または 4.00m

  • 全幅:1.45m

  • 車重:810kg

  • 最高速度:70km/h

  • 出力:20馬力

  • 生産台数:17,259台

B12

  • 全長:4.00m

  • 全幅:1.45m

  • 車重:1,100kg

  • 最高速度:70km/h

  • 出力:20〜22馬力

  • 生産台数:38,381台

B14

  • 全長:4.18m

  • 全幅:1.41m

  • 全高:1.80m

  • 車重:1,100kg

  • 出力:22馬力

  • 最高速度:80km/h

  • 生産台数:127,600台

 

 

シトロエンのタイプB10は、単なる新型車ではなく、自動車製造の未来を切り拓いた存在でした。その後のB12、B14へと続く進化の流れは、今もなおフランス車の歴史に燦然と輝いています。